STORY 5-③ by Yuki
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『才能』を集め、ある個人にそれを集約し、『神様』を作り出す。
なんだそれはバカかこいつ。そもそも…。
「矛盾してるだろ。その『組織』はあくまで『科学技術の振興を図る活動』ということでNPO法に認められてるはずだ。それなのに『神様』だと?」
「オカルトですね」
「そうだよ!そんなもんを作るなんて言った日にゃNPO法の対象外になる。そうなれば組織としては成立しなくなる!」
「どうでもいいんです」
「はあ!?」
「どうでもいいんですよそんなこと。さっきも言った通り『表向き』には『才能』の謎を解明することが『組織』の活動なんですから。それで外からの目は凌げます。それにね、ユウキさん。そもそも科学の到達点って、なんだと思います?」
「到達点?」
スケールがおかしい。さっきから。
「『すべての事象の解明』。地球はなぜ回る?虹はなぜかかる?人間はなぜ生きる?種族はなぜ分かれる?宇宙はなぜ広がる?そういう無限に生まれる『なぜ』を解明することが、科学者の悲願でしょう」
「だからなんだよ」
「でも、そんなもの、人間ごときが知れるわけがない。こんなちんけな生命体に、世界の真理なんてものが理解できるわけがない。そう。『神様』でもなければね」
「…だから、『神様』を作ってそいつに聞こう、ってことかよ」
「その通り」
「バカか?もし『神様』を目指したとしたって、それはあくまで『才能』がある『人間』だろう。『人間』なんだよ。『神様』じゃない。お前の言う通り、世界の真理が理解できる存在になれるとは思えん」
「もちろんその通り。『才能』を集めたところで本物の『神様』になんかなれるわけがない。現時点ではね」
「現時点では?」
こいつは本気で。
この理論に勝算があるとでも言うつもりなのか。
「いいですか?そもそもこの一連の思考は『カオス理論』によったものです。『カオス理論』とは、言い換えれば、『自然現象はすべて完璧には予測できない』というものです」
「おいおい…」
「科学の進歩はすさまじい。そのスピードはまさに予測できません。江戸時代の農耕民族たちに、『21世紀は田植えから収穫まで機械作業でできるようになっています』と言えば、一人残らず腰を抜かして驚くはずです。それくらい、科学の進歩はすさまじい。予測できない」
「本気で言ってんのか…?」
「ならばこそ、人間だってそうです。私は『神様』にはなれないかもしれない。なる前に死ぬかもしれない。でも私は多くの『才能』を発現する可能性がある。そしたら私の産む子にはいくつかの『才能』が受け継がれるはずです。その周りの者たちも同様。そうして世代をいくつも超えて、成長し続ければ、いつか誰かが『天の意志』まで到達するかもしれない」
「………」
「なぜなら、『自然現象はすべて予測できない』のだから。『神様』になれる人間はいるという仮定を否定する材料など、現時点では何も無いはずですよ」
…………………………。
もはや。
言葉を発する気すら起きないほどバカげた話。
それでも、事実として。
今もなお、各地に点在する『才能』は、『組織』に集結されている。
『神様』などというくだらない妄想のために。
「と、ここまでが『組織』のご意向。私にとっては虫けらのような茶番」
「………!?」
「次は、私。『アヤカ』についての話をしましょうか」
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