STORY 6-① by Ayaka
「どうしたんだ?帰らないのか?」
「………………」
夜。町中のコンビニの前で、少女は座り込んで携帯をいじっていた。
「中学生だろお前。もう10時になるぞ」
「帰りたくないんで」
少女は誰が見ても明らかに、暗い表情をしてふさぎ込んでいた。
「なんでだ?」
「帰ったら、父さんの連れてきた大人の男の人に体を触られる…」
「なんだそれ」
「『お前はかわいくて金になる』って」
「このご時世にそんなクソ親がいるんだな。ま、美貌もまた『才能』だと思うが」
「……………」
「怒るな。悪かったよ」
少女は暗い表情ながらも、相手がいれば口を開いてくれるくらいには気丈だった。
あるいは。
誰かと話すことで平穏を得たかったのかもしれないが。
「母親は?」
「死んだ。それから父さんもおかしくなった」
「そいつは大変だな」
男の言葉は軽い。
本気で心配などしていない。
だが、少女はこの男の雰囲気に、何故か安堵を覚えていた。
(なんなんだろこの人)
もしかしたらこのまま言いくるめられてホテルにでも連れていかれるのかもしれない。
まあ、クソ親父のクソ客にベタベタと触られるくらいなら、この男の方が幾分マシかもしれない。そう思えるくらいにはこの男に気を許していた。
「お前、『神様』を信じるか?」
「いるわけないじゃん。いたら私みたいなのに救いを与えてくれるんじゃないの?」
「そうだな。俺も『神様』なんていないと思ってる」
何が言いたいのか。
だけど少女はその男の次の言葉に興味津々になっていた。
「でも、いないなら作れば良いと思わないか?」
「は?」
「なあお前。俺らと一緒に『神様』を作ってみないか?」
「………………」
意味が分からない。
意味は分からないけど、この男の言葉には不思議な力があって。
「………。良いね。そしたらこんなこと、世界のどこでも起こらなくなるのかな」
「それは知らねえ。俺は『神様』じゃないからな」
『神様』を作るなどという妄想めいた企て。
だけど大きなことを成し遂げようとしているこの男が輝いて見えて、
後に『アヤカ』と名乗る少女は、ここ最近で初めて、明るい表情を見せたのだった。