年が明け、騒ぐ
前回
natsumikan-toaru.hatenablog.com
girl's side →
カウンター席にはとりどりの料理が並んでいた。それを前に話に花を咲かせていたのは、サツキ、マユナ、エリア、そして厨房側に立つアヤカだ。
「ところでサツキさん」
「なぁにマユちゃん」
一通りの料理を楽しんだマユナは、サツキにある質問をぶつける。
「今年はお兄に告るんですか?」
「ほにょわああぁぁ!?」
剛速球バリの勢いでぶつけられたその質問に、およそうら若き乙女が出してはいけない奇声を発してしまうサツキ。非常に耳障りなその叫びに、それでも何のためらいもなくマユナは続ける。
「結局去年は何の進展も無かったし。全然面白くないんでとっととやっちゃってくれませんかねぇ」
「ほんとにねぇ」
好機とばかりにアヤカも続く。
「大学でもサークルで麻雀打っててもさ。『これユウキさんならどうするのかなぁ』だの『ユウキさんはどう読むのかなぁ』だの『ユウキさんに会いたいなぁ』だの『ユウキさんに抱かれたいなぁ』だの」
「言ってないよねぇ!?あとの2つは言ってないはずだよねぇ!!!!」
「兄が淫乱と付き合うのはちょっと…」
「言ってないってばぁマユちゃん信じて!!!!」
喧噪の中で優雅に1人コーヒーを楽しんでいたエリアものってくる。
「なんでサツキはボクやマユナには色欲全開で突撃してくるくせに、ユウキ相手だとヘタレになるんだろうねー」
「そ、それわゴニョゴニョ…」
まだまだ純粋な子供であるエリアに痛いところを突かれたサツキは戦闘不能状態となってしまう。
「と、言いますか…。マユちゃんはともかく、他の2人も知ってたんだね、このこと」
「ま~」
「そりゃねー」
「い、いつから…」
「「サツキの態度を見てて気づかない人はいない」」
「ぐうぅぅ…」
いつも一緒のアヤカだけでなく、まだ小学生のエリアにまでバレバレであった事実に動揺を隠せないサツキだが、2人は『なに言ってんだこいつ』という顔でサツキを冷ややかに見つめていただけに、なにも言い返す気力は残っていないようだ。
「いや、でもホントにさ。いっつもウザいくらいに自信満々なサツキさんがお兄相手の時だけなんでこうも引け腰になるのか不思議だよ」
マユナは口は悪いものの、サツキのことは本当の姉のように思っている。兄のユウキの付き合う相手としてはドンとこいなのだ。いい年して女の影も無い兄のことも少なからずじれったく思っている部分もある。
(それに多分お兄もサツキさんの想いには…)
「だってさぁ…」
ボロボロに痛めつけられたサツキは、消え入りそうな声で言葉を絞り出す。
「ユウキさんってさ」
「うん?」
「シスコンじゃん」
「うん。………………………………………。うん?はい????」
「あー」
「お~」
頭の上に?マークを浮かべまくるマユナに対し、エリアとアヤカはこれ以上に無いくらいの納得の表情をぶっ放しているようだ。
「シスコンというのは…、アレかな?妹もしくは姉が大好き的な例のアレのヤツ?」
「そうです」
「な、なぜ?なんでそう思うの?」
さっきとは立場が変わって狼狽えるマユナと真剣な表情のサツキ(そして他2名はまたも『なに言ってんだこいつ』という表情をぶっ放している)。
今度はサツキが食って掛かる番のようだ。
「?…だってユウキさん、めっちゃマユちゃんのことかわいがってるじゃん」
「そ、そんなにかな…?」
「じゃあマユちゃんユウキさんに怒られたことある?」
「…ないけど」
「ケンカしたことある?」
「…ないかも」
「マユちゃんの頼みを断ったことないよね?」
「…は、はい」
「困ったことがあったらいつの間にかユウキさんがそばにいてくれたことに身に覚えは?」
「…あります…」
「私と一緒に外出するときなんか毎回『帰り何時くらいになる?』メッセのやりとりしてるよね?」
「…してます…」
「1週間に1回は頭ポンポンされてるよね?」
「…そうかも」
「なんか1個ぐらい否定しろようらやま死させる気かこらああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「え、えぇ!?」
サツキの豹変にたじろぐマユナ。アヤカとエリアが続く。
「後半ちょっと気持ち悪いけどね~」
「頭ポンポンはボクもたまにされるけどねー」
「こ、こっちにも うらやま死の伏兵が!?」
度重なる攻撃にまたもダメージをうけるサツキに、マユナは攻撃を続けてしまう。
「た、たしかに頼りになるお兄ちゃんだとは思ってるかもだけどっ。たしかに勉強わかんないところとかいつも教えてもらってるけどっ。たしかにこのお店の『新作スイーツの開発だ』て言って一緒にケーキとか作ったことあるけどっ。たしかに夜に麻雀の牌譜検討やってたら私が寝落ちしちゃっていつの間にかベッドまで運んでくれてたことあるけどっ。お姫様抱っこで」
「やめろやめろホントに死ぬよ!?良いの!?ねぇ!!??っつーかなんだお姫様抱っこってなんで寝てるのにお姫様抱っこで運ばれたのが分かるんだちっくしょうめええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「まあ、お姫様抱っこは盛った」
「されてるよどうせ!!マユちゃんかわいいから!!!!」
「なんでサツキはこんなにいつも死にそうになってるの?」
「業が深いからだよ~エリアちゃん。こんな女にならないようにしっかり目に焼き付けておこうね~」
「…教育に悪いからやめて……」
もはや今年1年分のダメージを負ったのではと思われるくらいメタメタになってしまったサツキだが、かろうじて純情な小学生の未来を案じる気力はあったらしい。
「つまり…、あれだけシスコンなユウキさんに告ったところで相手にされないのではないかと」
アヤカの総括にエリアも続く。
「仮にそのハードルを越えられたとしても、ユウキの好みが妹系だとサツキ的には厳しいんじゃないかということだね」
「エリアちゃん察しすぎて怖い…」
「別にお兄はそういうの大丈夫だと思うけど…」
「サツキはあれだよね。くーるびゅーてぃー?見た目だけは」
「ひとこと多いなぁ…」
ちょいちょい刺さるエリアの言葉に耐えながらもサツキは仲間たちの意見を頑張って聞きたいようだ。
「大丈夫だよサツキ~。妹系とは違うかもだけどサツキはこんなにかわいいし、めっちゃいいヤツだってことは私が保障してやるよ~」
よしよししてくれるアヤカの胸に顔をうずめながらサツキはつかの間の救いを得る。
「ううう~。アヤカ優しい~。結婚して~」
「ユウキさんとしろ~」
「う~ん。結婚となると話は変わってくるなぁ…」
「ぐはぁっ」
ここにきて実妹からのNG宣言に、サツキはついにKOされてしまう。
「サツキ~!踏ん張ってサツキ~!マユナちゃんトドメさしちゃだめだよ~」
「嘘ですよサツキさん。私に手を出さないと約束するなら」
「…………………………………………………え?」
「おいなんだその間は」
これが彼女たちの日常。
年が明けても何も変わらない。
この1年も、笑って過ごせればと願うばかりである。
「まああの男に魅かれるのは分かるけど、私のサツキを泣かせるようなことをしたらこんどこそ殺しちゃいますからね。ユウキさん♪」
日常は、微妙なバランスで保たれている…
つづく