STORY 2-① by Kazuki
『人間、世界中どれだけの不平等があったとしても、命の価値だけは人は皆平等』。
医者の父さんがいつも俺たち姉弟に言ってたことだ。
それを曲解したのか、はたまた本当の意味で理解したのかは知らないが、俺たち姉弟の仲では『お姉ちゃんなんだから』とか『男の子なんだから』みたいな差別はそんなに無かったように思う。
それは学校生活でもそうで、俺は女友達がそれなりにいたし、ねーちゃんも男友達がそれなりにいた。
おかげで楽しい生活を送れた。楽しい生き方ができた。
ああゆうガサツな姉だったからこそだろう。
ああゆう単純でまっすぐな姉の背中を見てきたからこそだろう。
『平等』が当然で、何の疑いも無く高校入る直前まで生きてきた。
そして、マユナと出会った。
「『困った』人がいたらどんな手段を用いても助けろ」
これはねーちゃんから学んだことだ。
その信念にのっとって実際にねーちゃんはずぶ濡れになりながら小さな女の子を救った。俺自身の座右の銘にもなった。
その女の子が、また、いた。
医者の性からか、人の感情を汲むのが体質になっていた俺は、その女の子の『異常』に気づいた。
『あの言葉』の印象がキツ過ぎたのもあっただろう。
何でもできる。気も使える。みんなに好かれる。
でもその『目』は笑っていない。
何かしらに諦めているような感じ。
そいつは同じ部活に入って、3年間一緒に頑張ることになった。
それでも1か月くらいたっても、その目が笑うところを俺は1度も見なかった。
俺が1番弱ったのが、そいつが『困って』いなかったことだ。
『困って』いたら俺はすぐにでも動いたろう。
具体的な手段が思いつかなくても、最低でもねーちゃんに相談するなりしたはずだ。
そいつは、『今』が最適だと思っていた。
個人的には気に食わなかったが、それが『悪』であるわけではない。
だからずっと踏ん切りがつかなかった。
『救う』などと高尚なことをするつもりはなかったが、それでも何かを変えてやりたいという思いはずっとあった。
カイトはなんでもよく気が付くヤツだった。
出席番号が近くてよくだべっているうちに仲良くなった。
だからカイトはあの時、マユナが体育館から出て行ってなかなか戻ってこなかったのを俺に言ってくれた。
直感だった。
今、行かなければならないと思った。
そいつは雨に濡れて『なにがしマスターズ』の散らばったカードを拾い集めていた。
俺はそいつの顔を見た。
険しい表情だった。
そして、脳裏にあの言葉が光った。
「『困った』人がいたらどんな手段を用いても助けろ」
それは言い訳のようなものだったのかもしれない。
カードを濡れながら拾うのに困っていたぐらいで動くなら、最初から動いていればよかったのかもしれない。
でも、それをきっかけに、俺はそいつを助けることができた。
後で聞いたら、あの険しい顔は困っていたわけじゃなくて怒っていたということらしいが、まあそれはそれ。
俺が助けたかったヤツを助けられたのは、ひとえにねーちゃんのおかげだ。
本当に感謝している。
でも、それだけじゃなかった。
俺のねーちゃんへの感謝は、それでもまだ終わらなかった。
続く