STORY 4-① by Yuki & Kenji
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「麻雀?ってあれですよね。負けたら指切られるヤツ」
「ダーティーなイメージはしょうがないとしても、お前のそれは極端すぎるだろ…」
喫茶『1 chance』。俺はここでバイトをしている。
大学のレポートを片付けようとして偶然寄ったこの店のコーヒーが美味く、ちょうどバイトを探していたこともあり、ここで働くことを決めた。
「今や麻雀は、そういうギャンブルっぽい1面はすごく薄れてる。あくまで純粋なゲームとして広まりつつあるんだよ」
「へえ」
平日の夕方。お客さんは3人ほど。
基本的に立地も悪いし店も大きくないし、目立つ店ではないのでそんなに儲かってるわけではない。
ただしコーヒー好きなら1杯飲めば離れられなくなるインパクトを持ったここのコーヒーは、リピーターを着実に作り続けている。
「ほい」
「これ…、麻雀のルールブックっすか」
「ああ」
「やるなんて一言も言ってないですが」
「向いてると思うんだけどな。お前は頭がキレて仕事ができるし、常に周りに気を配れるってとこもまた良い」
「はあ」
この店のケンジマスターは、どうも俺のことを気に入ってるらしく、(営業中に)よく話をしてくれる。
「まあ、マスターが言うなら暇なときにでも」
「おう」
たったこれだけ。
たったこれだけの会話が、俺を2度と抜け出せない道への誘いとなった。
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晶「へえ。ユウは喫茶店で働いてるんだ」
ユウ「もともとコーヒーが好きでね」
晶「コーヒーについては全然知らないけど、あれでしょ?いろんな豆をブレンドするんでしょ?」
ユウ「『オリジナルブレンド』とかいうメニューをよく見るから一般人はコーヒーをブレンドするものだと思ってるかもしれないけど、別にそうじゃないよ」
晶「そうなの?」
ユウ「1種類の豆で淹れるコーヒーもある。『ストレートコーヒー』っていう。複数の豆で淹れるのを『ブレンドコーヒー』」
晶「そうなんだ」
ユウ「むしろ淹れ方に着目してほしいんだよな」
晶「淹れ方?『エスプレッソ』とかいうよね」
ユウ「そう。『ドリップコーヒー』と『エスプレッソ』は全然違う。淹れ方も、楽しみ方も」
晶「ふーん。では先生。ご教授ください」
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あれから1か月後。
ユウキのヤツは麻雀にドはまりしたらしく、シフトに入るたびに暇を見つけては俺に麻雀のことを聞いてきた。
そして今日、客がいなくて暇なのでネット麻雀をやらせてみることにした(営業中)。
やはりうまい。
明らかに俺が教えた内容を、自らの力だけで発展させる能力がこいつにはある。
『天才』と呼ばれる少女を、俺は知っている。
若い才能ってのは、本当にワクワクする。
こいつも、その片鱗が見える、な。
「ん?今ちょっと見えたけど、お前チャットアプリ入れてんな?」
「ああ。そうですね。最初は暇つぶしで入れてたんですけど、麻雀の話題でやたら話に食いついてくるやつがいて、そいつと結構話してますね」
「男?女?」
「さあ。晶っていう中性的な名前で、じゃべり方とかも微妙でわかんないです」
「ふーん」
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晶「妹さんには麻雀のこと言ってないんだ?」
ユウ「今、何か部活でいろいろ大変らしいし。特に話すことでもないんじゃね」
晶「そろそろ夏の大会かな」
ユウ「そう言ってた」
晶「最近なぜか明るくなったとか言ってたね」
ユウ「部活で、良い仲間を見つけたみたいでな」
晶「ちょろっと話してみれば?」
ユウ「女子高生に麻雀なんて言っても反応されるか?」
晶「思いがけないことが起こるかもよ?特に優秀な妹さんなら。もしかしたらそれ以外のところにだって」
ユウ「?どゆこと」
晶「ま。もしもの話だよ」
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