STORY 5-① by Yuki
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「苦っ!砂糖砂糖…」
「イオリ…。ユウキさんがせっかく淹れてくれたのに砂糖で埋める気?どんだけ入れてんの。まあアタシはおこちゃまイオリクンと違ってブラックで頂きまsにっっっっっが!!!!????」
「お前の方が失礼な反応してるぞ」
「……苦いの〜?これ。なんか泡が多い…」
サツキとイオリ君が無事に大学に入学して数ヵ月。
大学で友達になったアヤカという子と3人で来た大学1年生ズ。
なぜ呑みたいと思ったのかわからないが、コーヒーのことなんてろくに知らなそうな3人がいきなりエスプレッソを注文してきたのでちょっと心配だったが、案の定だった。
………1人を除いて。
「だから言ったろうよ。エスプレッソってのはドリップコーヒーとは違うんだって。初めてのヤツじゃあシュガーで自分好みに味付けするか、こっちでいろいろアレンジするかしないと飲めないって」
「量が少ないから余裕だと思ってました…」
「びっくりした。劇薬かと思った…」
「砂糖砂糖。これくらいですか〜?まだ入れる?」
恐る恐るといった感じでシュガーを入れるアヤカ。
………だが、もう遅い。
「あーそんなもん。そんで、すっと飲む。ちびちび飲むと風味が飛んじまってダメだからね」
「…。お〜。さながらビターショコラのようなフルーティーな香りが私を支配する……」
「分かるじゃんか、木原さん」
「アヤカで良いです〜」
「うえ。でもこれ底に砂糖が結構沈んじゃってるんですけど。混ぜちゃダメなんですか?」
「それはそれで良いんだよ。底に残った砂糖をすくって食べるところまでがイタリア風エスプレッソだ」
「へえ。飲み物って感じじゃないっすね」
俺は見逃さなかった。
「このケーキおいしい〜」
「マスターさんの手づくりらしいよ」
だからこそ『正体』も、すぐに理解した。
「神様ってのはどういう意味だ?」
「…………。はい〜?なんですかそれ」
ある日、俺は大学1年生ズを店に呼び、『マユナがサツキと麻雀したくて今か今かと待っている』と言ってサツキを店から追い出した(ラブコールを発しながら出ていった)。
(イオリ君は人数合わせのために首根っこ掴まれて引きずられていった)
残ったのは、『アヤカ』だけ。
「加奈、亜美、桃子、伊万里、佐那、晶、美奈子、そしてアヤカ。
頭文字をとってK A M I S A M A。神様。これがお前の言う『正体』ってことで良いのか?」
「何のことだかさっぱり…」
横ではマスターが、聞こえないふりをしてケーキの仕込みをしている。
他に客はいない。
「初めてお前がこの店に来て、エスプレッソを出した時、お前だけが自然にシュガーの瓶に手が伸びて、慌ててその手を引き戻した。普通の日本人は、エスプレッソになじみが無い。だから出てきたコーヒーに、いの1番に大量の砂糖を入れる習慣が無い。エスプレッソに大量の砂糖を入れるのなんて、むしろ専門知識と言ってもいいくらいだ」
「…………」
「お前はそれに気づいて、わざわざ伸ばした手をひっこめた。自分が一般的な人間であると振る舞うために。俺とのチャットで聞いた知識を持ってるのを隠すために」
「…………」
「そうだろう『晶』。いや『アヤカ』か?『神様』か?」
俺の考えを聞いた『アヤカ』の目の色は、明らかに変わっていた。
「それだけで?私が『晶』だと?」
「それだけってわけではないけどな。じゃあやっぱり…」
「…そうです。私があなたのチャットの相手。今は『アヤカ』…」
見つけた。
ようやく捕まえた。
「『正体』を暴いたら、全部話してくれるんだろ」
「そうですね。じゃあ良いでしょう。全部話します。ただ…」
『アヤカ』はマスターの方を見た。
「ん。ユウキ。お前もう上がってこの子と飯でも食って来いよ」
「ありがとうございます」
「…………。その前に一つ。『それだけ』ではないんでしょう?私を特定した理由は」
「異質だった」
「異質?」
俺の思考に興味があるようだった。
「俺、マユナ、サツキ、カズキ、マスター、エリア、イオリ君。これらの登場人物はずっと昔から『あったモノ』。でも、お前は違う。いきなり出てきた。『何かを起こすために登場したモノ』」
「…………」
「意味不明と思ってくれても構わん。カンだよ。俺が読んできたすべての小説の、『王道』に当てはまらない『異物』。それをお前に感じた」
「『感性』、か。さすがは『持っている』人間は違います」
「才能の話か?」
「約束です。それも含めてすべて、話しますよ」
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