親友①
いつもと同じ帰り道。
だけどいつもと違うことがあれば、
ちょっとだけいつもと違う会話が始まることもある。
バスケ部の顧問のミレイが交渉を頑張ってくれたおかげで強豪校との練習試合が組めた。
何クォーターやったかは覚えてない。
全体で見ればウチが負けていたのは確かだが、何回かは相手の得点を上回った時もあった。
ちょっと前までウチが弱小校だったのも相まって、相手校も驚いていたようだった。
思った以上にやれた。
身内の感想の総意はこれだろう。
顧問のミレイも賞賛していた。
相手校の指導者も。
ところが…。
「強すぎだろ○○高…」
「いやー。やることはやってきてると思うんだがなぁ、俺たちも」
カズキとカイト。
チームを引っ張るキャプテンと副キャプテンとしては、少し物足りない結果だったようだ。
この2人、能力は高い。
勉強の成績で言えば一般的な公立高校の上から2割程度に入る。
運動部のキャプテン、副キャプテンになるくらいなので身体能力も高く、何より2人には他の人間にはない特殊能力めいた特技もある。
だからなのだろう。
自分たちはもっとやれたのではないかという思いがあるようだ。
「もっと……が、………できれば」
「でも………で、………だからな」
彼らが何を言っているか分からないのはこの文章の書き手がバスケのことなんか全然分からないからであり、知る人が聞けば一般的な学生の部活動のレベルを一段飛び越えた内容の話をしているので悪しからず。
「他のみんなもよくやってくれてるが…、地力の差はやっぱ埋められんか〜」
「こればっかりは私立と国公立の差だよなぁ。練習時間も、元々の個人の能力も」
こんなことを言いながらも、彼らの胸中では『諦める』ことも『どうにもならないこと』とも思っていない。『どうすれば勝てるようになるのか』の模索に終点など無い。
まあ、本気でそう思ってるのはカズキの方で、カイトはどちらかといえば、カズキの願いを叶える手伝いをしたいというのが本音なのだが(とはいえ、それ自体に全力を注ぐため、結果的にはカズキと同じゴールを目指すということになるのだが)。
「『能力』か…」
「ん?」
ふと、カズキが話題を変える。
「カイトってさ、高校をウチに決めたのも、俺と出会ったのも、全部ただの偶然なんだよな?」
「あん?そうだけど」
「マユナに対しても?」
「そうだよ。前に言っただろ」
カイトは月城組という暴力団の代表の跡継ぎとして生きてきた。しかし個人的な『夢』ができたため、高校進学は組の敷いたレールから外れた道を選んだ。
その行き着いた先が偶然カズキたちと同じ高校だったわけだが、カズキはそれが半信半疑だった。
カズキだけではない。
カイトの裏の身分を知り、なおかつカズキ達のような特異的な人間の『才』を知るものならば、誰もがそれが偶然であるとは思わないだろう。
今でもカズキは、カイトが自身の『夢』のために自分を利用しようとしているのではと考える時がある。
「…………」
カイトは、極道ながら『善』の道を歩もうとしているとはいえ、それに行き着くまでの手段や思想はやはり極道のそれなのだ。
あくまで叶える『夢』そのものが『善行』なのであり、その『夢』が叶うまでにどれだけの『悪』が周囲に振り撒かれても構わないと、カイトは考えている。
自分自身の『夢』のために手段を厭わないという意味では、カイトの本質はあくまで『極道』で、『悪』なのだ。こうやって部活帰りにダベりながら一緒にいたとしても、そこだけは変わらないということをカズキはよく知っている。
「まあ、最初は偶然だったとしても」
カイトは、カズキがそういう疑惑を持っていると分かった上で、言う。
「今俺がお前と連んでるのは、正真正銘 俺がお前を気に入っているからだぞ?」
「………………俺、男色では…」
「そうじゃねぇよ!!友人として!!」
「………そうだよな」
その答えも何度も聞いているのだ。『以前』あったゴタゴタが解消され、この2人には確かな絆が芽生えている。
互いに互いの裏の顔まで知り尽くした上で。
続く
カイトの『夢』
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