STORY 1-③ by Mayuna
前
「お前が九条さん泣かしてる間に全員分のバッグ運んだ俺にねぎらいの一言を」
「計算通り」
「おい!!!!!!!!!!!!」
練習試合が終わって自分たちの学校に戻り、解散の後、私たち3人は部室に残っていた。
あの後、ちょっと遅れた私たちを気にしてた人は何人かいたけど、大西君が言葉巧みにごまかしてくれた。
林君は帰りのバスで廃人と化していたけど、私に対して何か言ってくることはなかった。
「いつからそう思ってたの?」
私は聞いた。私が、与える側になるのを怖がっていたこと。
「5年前…。あの時俺はその場にいなかったけど、ねーちゃんはお前がベッドで寝てる間ずっとついてたらしくてな。その時お前、ねーちゃんになんて言ったか覚えてるか?」
「……なんだっけ」
「『おねーさんみたいなヒーローに、私は一生なれないね』って」
「………」
言った気がする。
我ながらスカしたセリフだなぁ。
「小学生の女の子が言える言葉じゃないって、ねーちゃん言ってたんだよ。俺もそう思ったから強烈に印象に残って、その時名前を聞いてたから、同じクラスになって名前を見た時ピンときた。もしかしてこいつか?ってな。」
「よく覚えてるよなぁカズキ。相変わらず」
「そんで同じ部活に入るってんでちょっと気にしてたんだよ。そしたら案の定、体弱そうな感じだった。医者の家系の性っつーか、そういうのは自然と気づくんだよ」
「でもよく動く人だとは思ったよな。健康管理表とか作ってきてさ。あれって自分で考えたの?」
「うん…。お兄が高校の時、部活でそんなのをやってたって聞いて」
感嘆する大西君の横で、神崎君は何かに納得しているように見えた。
「そーゆーことを、自分を守るための『当たり前』なことだと思ってたんだろう。見てたらわかるよ。なんかこいつ何かを気にしてんなーって」
「そうだったんだね…」
同年代の子に気づかれたことなんて1度も無かった。なぜこの子は気づいたんだろう?医者の血?それとも長年越しの印象の残り方が異常すぎた?
「これから、どうしていけば良いかな」
「まだ悩んでんのか」
あきれたような声で言われた。
「もう2度と泣かない選択をすればいいんだろ」
あれからお兄に事の顛末を話して「泣かせたその男殺しに行く」って走ってこうとしたのをとっさに腹パンして黙らせたこともあったけど、それはまあ良いかな。
それから1年と少し。
私たちが2年生の時の3年生の最後の大会で、4回戦敗北して3年生は引退。
新しいキャプテンには、彼がなった。
「カズキ、今日は暑いからスポドリ多めが良いよね?」
「あー。氷も多めが良い」
「んー」
あれから私が選んだ選択肢は、新しい世界に身を投げること。
でもそれは、その世界が輝いていることを知ったからじゃない。
私自身が輝かせたいから。
私の、人に何かを与える力で。
「マユナ」
「ん?」
「次は決勝まで行きたいな」
「うん。そうだね。私も」
1年の夏頃、サツキさんに会いに行って「うきゃあああああ!前より全然かわいいこれ運命の出会いヒイイイィィィィィィィハァァァァァアアアァァ!!!!!!!!!!!!」って襲い掛かってきたのをとっさに腹パンして黙らせたこともあったけど、まあ良いかな。
そしてその後、私たちはサツキさんから麻雀を教えてもらって、お兄との真剣勝負をしたりするわけだけど、それは別の誰かに語ってもらおうかな。
あの時、カズキに『15人+α』ではなく『16人目』と言われた。
私に背中を預けて一緒に戦いたいと言ってくれた。
私に、自分1人で戦う力があると気づかせてくれた。
なら、私は、優秀な両親やお兄から授かったこの力を誰かのために存分に発揮したい。
恋に悩む誰かさんのお姉ちゃんを後押ししたりしてね。
いかに私がかわいくて可憐で優秀で成績も良くて運動もそこそこでお金もあって病弱で守ってあげたくなるようなウルトラスーパー女の子であっても、傷ついて泥まみれになって誰かを救うヒーローになってはいけないというルールなんて、世界のどこにも無いからね。
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