オレンジライフ【雀魂・Mリーグ】

雀魂やMリーグ、麻雀についてを書いております!

STORY 2-② by Kazuki

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「あ、ジンジャーエール切れてた。カズキ買ってきてよ」

「自分で行けよ」

「アタシのいない間にアンタマユちゃんに何かするつもりでしょ!汚らわしい!アタシのマユおっとよだれがアタシのマユちゃんに何かしたらただじゃおかないから!」

「私はサツキさんのものになった覚えはないんですけど」

「マユナ本人から苦情が来てるんだよ。ねーちゃんと二人きりの時の目の色がやばいって」

 あれ以来、ちょくちょくマユナは俺んちに来るようになった。

 主にねーちゃんが連れてこい連れてこいうるさいから俺が頼んでる形なんだが。

「サツキさん一応受験生でしょ?まだ夏とはいえ、こんなダラダラしゃべってて良いん

ですか?」

「受験?ああヨユーヨユー」

「はあ」

「もっと本気で勉強すりゃあ上の大学行けるくせに。まあ現時点で志望校A判定だったか」

 ねーちゃんは、こんなでも努力家だ。

 今はダラダラしてても毎日一定量の勉強はしてるし、だからこそ俺は特に何も言わないわけだが。

「そう!だから心配しないでマユちゃん。思う存分アタシの腕の中ジュルリ腕の中に飛び込んでモニュモニュしようモニュモニュじゅりゅりグヘヘヘヘ」

「離れてください。ちょうどここに殴打に手ごろなジンジャーエールの空き瓶がありますけど使って良いんですよね?」

「うぅ。カズキの冷たいところが移ったんだね。悲しいよ。うぅ」

「ウソ泣きしても何にもなりませんからね?心配そうな顔で上目遣いで覗き込んだりしませんよ?何枚盗撮されたと思ってるんですか」

「俺の予想をはるかに超えるやばさなんだが…」

 集まって何をするでもない。

 本当に、ただの友達のように暇を潰すかのように。

 あれからマユナの『あの目』は(ほとんど)見なかった。

 数年ぶりにねーちゃんと再会した時も『あの目』は見せなかった。

 だから、まあ。嬉しかったかもな。

 本当に心から、後悔のしない選択をしてくれたようだった。

 

「最近、麻雀のアニメやってるよね」

 その話を切り出したのはねーちゃんだった。

「あー、何て言いましたっけ。なんか漢字一文字の」

「そうそれ」

「ねーちゃんアニメとか見んのか?」

 受験生なのに。

「あんまり。でもクラスの男子がその話してて、麻雀やり始めたんだって」

「返す返すも皆さん余裕なんですね」

「そんなことないと思うがな……」

 男子学生ってのはとりあえずワイワイ騒いでれば酸素無しでも生きていける。麻雀は4人でやるゲームだから、それなりの人数を巻き込んだ騒ぎになっただろうな。

「アタシもルール教えてもらったんだけどさ」

「へえ」

「めっちゃ面白いんだわこれが。最近ちょこちょこネット麻雀やってるんだけど、ついつい止まらなくなるんだよね」

 まあ、だからと言って勉強をサボる性格でもないのは知ってるが。

「あれって、運のゲームじゃないんですか?」

「まあ、そうなのかもしれないけどさ」

「どれくらい勝ってんだ?」

「どれくらいって言われてもよくわかんないけど。1位率は0.287だったかな」

「良いんですか?それ」

「わかんない」

 今にして考えてみれば、友人にちょっとルールを教えてもらった程度でそんな好成績になるわけがない。まったく、徹底的に努力家だよな。

「とゆーわけで」

「やってみない?ってか」

 そっけなく答えるふりをして、俺は少し興味があった。

 麻雀そのものに対してではない。

 『特に趣味を持たないねーちゃんが興味を持った麻雀』に対してだ。

(………)

 ただ、あれはあんまり女子の趣味って感じでもない。

 俺はともかくマユナはノリ気にならないと思ってたんだが。

「はい!やりたいです!」

「おおお!!!!!じゃあヤロう今すぐ!ちょっと待ってねベッドメイキングしてくるから!」

「違う!そのヤリたいじゃない!いい加減にしろよこのアマ捻り潰すぞコラあ!!!」

「マユナ!?え?なんだ今のお前マユナか!?なんでもいいから瓶を放せ!!!!」

「取り乱してごめんなさい」

 もともと複雑な人生を歩んできた以上、こんな危険人物が身近にいたら取り乱してしまうのも無理はないと思うんだが、正直めちゃくちゃ怖かったんだが。

「でもお前、麻雀に興味あるんだ?」

「お兄がかなり好きでね。1回やってみたかったんだけど、ルールが複雑そうで敬遠してた」

「あー…」

 たまに聞くシスコン兄貴か、とは言わなかった。

 マユナもマユナで兄貴のことをいじるとちょっとムスッとするからな。

「よっしゃあ!では早速やりましょうか!ちょっと待ってねパソコン持ってくるから。その間にカズキはジンジャーエール買ってきて。マユちゃんはちょっと持ってくるの手伝って。アタシの部屋ジュルリに来て」

「絶対に行きません」

「俺も」

 

 あまり自分で言うことじゃないが、俺もマユナも人より頭の回転が速かった。

 そのうえ、ねーちゃんのヒーロー気質(おせっかいとも言う)も存分に発揮され、効率良く細かいところまでルールを教えてくれたから、俺たちはものの数日で実践できるくらいになった。

 初めてやったネット麻雀の成績は、俺もマユナも3位だったな。

 そして、やっぱりというかその1戦をきっかけに、俺もマユナも麻雀に魅かれていった。

 ただし、俺は日ごろ努力しているねーちゃんを尻目に勉強を疎かにするのは嫌だったし、マユナは勉強の話になると一瞬『あの目』になって、「有象無象の三下どもと同レベルに落ちぶれるのだけは嫌」と言って勉強をサボるようなことはなかった(マユナは今でもたまに『ブラックマユナ』になる)。

 そうして俺たちは、部活も勉強もある程度頑張り、たまに集まって麻雀の話やネット麻雀をするような生活を送っていた。

 そして、その日が来る。

 

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